隣のマイスター vol.4 0~1、9~10は人間 日立製作所笠戸事業所(下松市) 大谷時博さん(56)

カモノハシ。
N700系新幹線の異名だ。先頭部分の流れる曲線形状が靴べらの先を重ね合わせたようなカモノハシのくちばしの形に似ている。
先頭部分は108枚のアルミ板が組み合わされてできている。どれも3次元の流線形を描く。
この滑らかな曲線はこれまで職人がハンマーで1枚ずつ「たたき出し」ていた。職人の経験と勘が物を言う。卓越した技が脚光を浴びる半面、個人の技量に頼らざるを得ず、安定生産につながらなかった。
職人の神業を機械で再現する。
この難問に挑んだ。
数値制御フライス加工と言う。工作機械の刃物でアルミ板を「削り出す」。
どの材質の刃をどう当てるか。
厚さ20~30ミリのアルミ板を2ミリに流線形に削り込む。繊細な手作業に引けを取らない精巧さが求められる。組み立て加工なら失敗したらバラして組み立て直せばいい。機械加工はやり直しがきかない。
たたき出しから削り出しへ。
1年を超す試行錯誤を重ね、個人技をオートメーション化する「先頭構体パネル工法」を確立した。それまでひと月1枚だった製造数は1日2~3枚に増え、生産性が上がる。
0から10までの工程があるとする。
「機械化の進展で1から9は機械にお任せ。だが、0から1、9から10は人間の仕事だ」
0から1は機械に指示を打ち込む工程を指す。現場では「段取り」と呼ぶ。機械は指示に従順だ。指示が誤っていたら加工もその通り誤る。段取りが全工程の成否を左右する。
9から10は仕上がりの確認作業だ。曲線形状に誤差はないか。バリは出ていないか。最後に確かめるのは人の目だ。
「技術革新が進んでも人間の出番はある」
正射必中。
座右の銘にしている。弓道の格言だ。正しい型で矢を放てば必ず当たる。「当てたい」と欲を出したら型が崩れて外す。
生産工程も同じ。正しい手順を踏めば正確な製品が出来る。
業務に長い間精励したとして昨年11月、黄綬褒章を受けた。
妻(57)の手を引いて天皇陛下の拝謁(はいえつ)に臨んだ。連れ添って32年。変わらず支えてくれている。
「連れて来てくれてありがとう」
皇居を歩きながら妻が言った。
受章のお祝いの言葉はたくさんの人からもらった。
妻の一言が一番うれしかった。

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