隣のマイスター vol.1 溶接一筋 最高の栄誉 黒磯製作所 橋本 進 さん(69)

右手に握る溶接器が白い光を放つ。アークだ。100アンペアの電流で放電している。強烈な光源。裸眼で直視したら目をやられる。
鉄製の遮光マスクをかぶり、溶接器の先端を母材の金属に近づける。高温で母材の溶接部が溶け、接合される。
作業場は無音だ。作業に集中する。無駄口をたたく者はいない。自分も同僚も。気が緩んだら事故を招く。
放電を止め、接合部を確かめる。出来は悪くない。溶接痕が貝殻の連続する模様になっているのがその証しだ。
50年間溶接一筋。周南市出身で地元高を出た。日立製作所笠戸事業所(下松市)で溶接工の一歩を踏み出す。
大きな仕事も小さな仕事もやった。原発の鉄管は直径13メートルあった。半導体製造装置の管は6ミリ台にすぎない。
日立を定年まで勤め、2011年、黒磯製作所(下松市)に籍を移した。小さな町工場だ。
近年は半導体製造装置の受注が多い。ステンレス製の真空部品を溶接する。
高温で接合するため、ゆがみが出る。半導体製造装置は高い精度が求められる。
母材をボルトで固定する。金属の拘束具で締め付ける。ゆがみ防止法は母材の大きさ、形状によって異なる。
現代の名工。
橋本さんはゆがみを最小限に抑える技術を編み出し、12年、クラフトマンとして最高の栄誉を受けた。
朝、一番乗りで会社に出てくる。床をはいて窓をふいて。真っ先に掃除に取りかかる。
「ええですから、私らでやりますけん」
名職人にそんなことをされたら立つ瀬がないと同僚が止めにかかるが、「気にせんでええ」と取り合わない。
事務室に専用机が用意されたが、「ここが落ち着く」と机ごと作業場に引っ越してきた。
休憩時間になった。作業場は打って変わって賑やかになる。同僚と輪になって世間話に花を咲かす。
「俺が若いころはよう」
最近彼女ができた20代の後輩に恋愛の心得を説く。
ひと時の休憩時間が終わった。めいめいが作業に戻る
作業場は再び音のない空間に包まれる。

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